
◇ サンスクリットの名詞の「格」について
日本語では、名詞の存在や所属、方向性などを示す場合、「は」「を」「の」などをつけて文章を作り上げていきます。
例えば「私」なら「私は」「私が」「私を」「私の」「私に」などです。
学校で「がのをにへとからよりでや」とか、呪文のようなものを覚えされられ、すっかり国語が嫌いになった(笑)方も多いでしょう。
このような言語を「膠着語 こうちゃくご」という難しい名前で呼ぶのですが、「膠着」というのは貼り付けることで、要は「私」という名詞は変わらずに、「は」「の」「を」などを外に貼り付けることによって文章を作っていく言語、ということです。
これに対して、サンスクリットが属する「インド・ヨーロッパ語族」または「印欧語族」は、名詞の単語の内部を変化させることによって、その「は」「を」「の」などを表します。
このような言語を、日本語のような「膠着語」に対して「屈折語 くっせつご」と、これまた分かりにくい用語で呼ぶのですが、要は単語の内部で形を変えて、違った意味を表すという意味です。
私たちが長い時間かけて学んだ英語も、実は印欧語族の言語のひとつで、以前は立派にこのような屈折語の特徴を持っていたのです。それが
時代とともに簡略化してしまったのですが、今でも「I 私」などの代名詞
にこの名残があります。
「I my me アイ、マイ、ミー、
you your you ユー、ユア、ユー、
he his him ヒー、ヒズ、ヒム、
she her her シー、ハー、ハー、」
なんて習いませんでしたか?
あれは「I」が「私は」、「my」が「私の」、「me」が「私を」を意味して、その時に「所有格」「目的格」などという言葉も一緒に習ったご記憶がおありの方もいらっしゃるかと思います。
これが屈折語の特徴で、英語は他の部分は簡略してしまいましたが、普通の屈折語は、全ての名詞にわたって、このように変化します。
この「所有格」「目的格」などのひとつひとつを「格 かく」と呼び、またこの形、語尾の違いのことを「格変化」といいます。(サンスクリット、また一般の屈折語では、現在「所有格」「目的格」とは言わず、別の用語があります)
格変化をする言語は、サンスクリットを含め、伝統的にこの変化を覚える方法があり、「アイ、マイ、ミー、ユー、ユア、ユー・・・」もそのひとつです。
私たちは、「アイ、マイ、ミー・・・」と唱えることで、そうとは意識
せずにも、格変化の暗記をしていた、というわけです。
英語には、かつてこの「格」が4種類ありました。ドイツ語を習ったことがおあり方にはお馴染みと思いますが、現在のドイツ語にも4つあります。
サンスクリットには、この「格」が、なんと8つもあります。
ドイツ語の格変化で苦しんだ方には、めまいと吐き気がする(笑)話しかもしれません。
同じ印欧語族で、サンスクリットとも関係が深い、古典語に属するラテン語で6つ、古典ギリシア語でも5つしかありません。
もともと印欧語族の格変化は8つが基本だったのが、時代とともに、
だんだん、格と格が混ざってしまい、減っていく傾向があったのです。
その中で、サンスクリットは、古来の8つの格をいまだに保っている稀有な言語と言えます。
これは、サンスクリットが日常使用される言語というよりも(もちろん、サンスクリットを日常、読み書き話し聞くことができる人は今でも存在します)、雅語として、ある時期に文法事項を規定し、それを規範にしてきたことによります。そのために時代による変化を蒙らずに済んだのです。
(ある時期、というのは紀元前5〜4世紀、パーニニという文法家によってです。日本では縄文時代です。こんな時代から、サンスクリットは現在までほとんど形を変えず、その形態を保っているのです)
「サンスクリット」という名前自体が「完成された、完璧に作られた、高度に精巧に作った、人工の、洗練された言語」などを意味する 「saMskRta サムスクリタ」という単語から来ている言葉なのです。
話しが逸れましたが、要するに、サンスクリットには格が8つあります。
英語の「I」の格変化が単数形「私」で「I my me」、 複数形「私たち」で「we our us」、全部で6つありましたように、格変化には、「格の数(かず)」かける「数(すう)の数(かず)」だけ変化の形があることになります。とするとサンスクリットの変化形の数(かず)はいくつでしょうか?
別項で書きましたように、サンスクリットの「数(すう)」は「単数」「両数」「複数」の3つですから、格の8つとかけて、24、たった一つの名詞に、24もの変化形があることになります。
また、「男性」「女性」「中性」の性で変化の形が違い、同じ性でも語尾の文字によってもまた変化が違います。
変化の形には共通する部分があるものもあり、基本を覚えてしまえばだいたい類推ができるものがほとんどですが、それにしてもこれをある程度見分けられるようになるのはなかなか骨です。
しかし、これが見分けられないと、文の構造を読み解くことが全くできませんので、サンスクリットを読むには絶対に必要な事項なのです。
ずいぶんと脅かしてしまった(?)ようですが、先ほど英語の「I my me アイ、マイ、ミー・・・」を例にとり、このような格変化を持つ言語には、伝統的にその変化を覚える方法がある、と書きましたが、サンスクリットでも同じような覚え方があります。
学習の初めからこの暗唱を実行し、この格変化を覚えてしまうのが理想ですが、「トップダウン方式 サンスクリット学習法」を標榜するこのサイトでは、伝統的な暗唱方法を活用しつつも、「バガヴァッド・ギーター」の実際の文章に触れながら、少しずつ、その概念と実際の変化を実地に覚えていく、という無駄のない方法を並行して、学習を進めて行きたいと思います。
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